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Dialogue

大きな出来事のあとに


Jonathan Safran Foer × Mieko Kawakami × David Peace
Motoyuki Shibata (moderator)
ジョナサン・サフラン・フォア×川上未映子×デイヴィッド・ピース
柴田元幸(モデレーター)

03

text by Saito Makiko photograph by Tada

トラウマからの再生

柴田
 同時テロ事件や東日本大震災など、いろいろ人たちがこれらの出来事について書いていますが、そこでは往々にして「どう書くか」ということ自体がひとつのテーマになっていると感じます。まずはそのことについて、おうかがいしたいと思います。
ピース
 難しい質問ですね。私は二〇〇四年から〇九年まで日本に住んでいて、二〇一一年の六月にまた戻ってきました。三月には日本にいなかったので、テレビで震災の様子を見ていました。雑誌から寄稿を求められましたが、東京にも東北にもいなかったので、私の知り合いが何週間も何カ月も被災地で起きていることを報告していたのを考えると、その日に起きたことやその後起こったことを書くのは不謹慎ではないかと思った。だから『それでも三月は、また』に書いた「惨事のあと、惨事のまえ」は、芥川龍之介の時代に遡って、一九二三年に起こったことを書きました。長い間、私にインスピレーションを与えてくれた作家でしたし、歴史を垣間見ることで、彼が震災とどう対峙したのかを書きたかったのです。
柴田
 過去について書くことが、ついこの間の出来事に近づく道になっているということでしょうか。
ピース
 そうですね。本当にに近づけたかどうかはわからないですが。
柴田
 川上さんは「震災前」ということについて書かれていますね。
川上
 こういった大きな出来事があった時、ものを書く機会がある私たちは、この状況でどういう役割があるのかということを少なからず考えますよね。何ができるのか。癒しなのか。記録なのか。今後サバイブするための具体的な手引きなのか。あるいはそのすべてを満たすべきなのか。私たちは三月十一日以後の世界を生きていますが、同時に地震の脅威にさらされているので、地震の直前である可能性にもさらされています。地震の後でありながら、地震の前を生きている。便宜的には、三月十日的世界なのです。しかし、これほどたくさんの人を同時に喪失する経験はなかったので、忘れて前に進まなければいけない、あるいは忘れてはいけないという、二つの引き裂かれるような状況をつきつけられているわけです。私は寄稿を依頼された時に、直観的といいますか、技術の問題かもしれませんが、震災が起きる前を書くことを選んだ。あるいはそれしかできなかったんですね。なぜそちらを選んだのか、今も考えています。震災前を書くということは、二度と戻らない世界を捏造すること。これまでになかったような現在に、失われてしまった震災前の世界を書いたり読んだりして、それを保存することは、ねじれが生まれることだと思うのです。フィクションを読む時は、息をする人間の力を感じざるを得ないと思うのですが、そのねじれがどう原動力になっているのか、言い表すのは難しいのですが。
柴田
 忘れて前に進もうという流れと、忘れてはならないという流れが同時にあるとおっしゃいましたけれど、フォアさんが9/11を扱われた小説『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』では、僕は忘れないという子供を書いている。9/11を忘れる、忘れないということは、フォアさんにとって大きなモチーフになりましたか?
フォア
私はそのことを特に問題視して書いたわけでもないんです。何かを伝えようという特別な動機があったわけでも、意見を提示したいというわけでもなかった。何が書けるのかわからなかったのですが、まずは書いてみようという気持ちで取り組んだら、自分でも驚いたことにあの作品が書けたという感じです。事故や事件など書く題材として都合がいいものを探して、何か計画に沿って成し遂げたというものでは決してないんです。私がひとつ大きく惹かれているのは、心の傷、トラウマです。ほとんどの人がトラウマと戦って生きているでしょう。歴史的なものだったり、感情だったり、プライベートだったり、家の中でのことだったり。トラウマは脳の中に刻まれた小さなスペースかもしれませんが、なかなか逃れられないもの。それは大災害でなくとも、幼少期の終わりの出来事、野望や恋愛が成し遂げられなかったこと、何でもあると思います。トラウマはいろんな形で現れますが、おそらくこれからも書いていきたいテーマになると思います。
柴田
 今、トラウマというテーマが出てきましたが、たとえばピースさんがお書きになるような戦後日本の混沌は、多くの人が共有しているトラウマと考えてもいいのでしょうか。そういう意味ではピースさんも、トラウマに惹かれる作家なのではと思いました。
ピース
 私は長い期間、東京に住んでみたいと思っていました。戦争で大きな打撃を受けた都市や人々が今どうなっているのか。隅田川の近くに住んでいたのですが、どう再建していったかに興味がありましたね。
柴田
 トラウマからの再生という意味合いもありそうですね。
ピース
 そうですね。戦後何もないところから、回復、再生への道のりですね。
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