Coyote コヨーテ
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編集長日記新井敏記 連載「ブッキィッシュな国のロビンソンたち」
第七回

出会う人
大竹伸朗

『カスバの男』という本を読んだ。
 熱波の国、モロッコに足を踏み入れた旅人は、その容赦なく照りつける太陽を背に、犬のように路地を徘徊しながら、執拗に嗅いだ人々の吐息や街気配を記憶していく。
 旅人の名前は大竹伸朗。突き刺さるような人々の視線のなか、旅人が踏み入れた場所は、例えばタンジール、アシラ、フェズ、マラケッシュ。彼の眼に写った灼熱の地の光りは強烈な影となって旅人の足下を揺らす。
 大竹伸朗は画家としてはもとより、写真家としても才を発揮している。写真集『19』は北海道の牧場で過ごした19歳の揺れをモノクロの写真で表現したものとして評価が高く、先頃上梓した『UK77』は70年パンク以降ニューウェイブに揺れるロンドンのまたとないドキュメントとなっている。個人の微細な視点が全体へ希求する時、大竹の創作の原点はその力にある。彼はまた音楽家として、そしてエッセイストなど実に多彩な活動で知られている。
 自由な彼が旅をする、ましてやモロッコである。その道行きがどうなるのか、読者はハードボイルドの小説を読むように、次にどうなるのか、ワクワクしながらこの本を読み進めることになる。 「ケモノは自分で作ろうと思ってケモノ道は作らない。ただ毎日そこを歩くだけだ。モロッコではなにかが壊れたとき、それが日常の中で再利用の明快な答えが与えられていないものは永遠に放置される運命が待っている、ビーチの金属製のゴミ箱の多くは、ゴミ受け部がとっくの昔に消えさり、残されたゴミ投入口部が間の抜けたロボコップの頭蓋骨のように街灯に張り付いている」
 大竹は、灼熱の地下を這ってきた電気コードの末端の輪郭にさえも、愛おしい視線を送る。旅をする理由は徐々にあきらかになる。彼はゴミをさまざま方法で拾遺することで、宇和島のアトリエに重ねているのだ。例えば造船所の廃品のパーツを組み合わせた作品『花と花瓶』。置き去りにされた物へ、旅人の視線が注がれる時に、哀愁の街は彩りを変え、不穏な空気を漂わせることになる。ここではないどこかは、どこでもいいことになる。結局分析でも教養でもない旅の濃密さ、音や匂い、旅人に刻まれた鼓動は境界線を照らしていく。
 2週間にも満たない滞在であるにもかかわらず、旅人がとらえた世界は異国という果てなのである。大竹のもっと深く人と交わった旅が見たい。金子光晴のような中国女に出会った時、彼はいったい穴に指を挿入するだろうか。狩猟の匂いは今や旅をすることでしか、得られないものかもしれない。モロッコの喧噪にアジアの甘く切ない地平線を見てしまう。