ROAD MOVIES 1

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『Almost Famous(あの頃ペニーレインと)』

トリップ感★★★
ストーリー★★★★
音楽   ★★★★★
キャスト ★★★★★

 もしキャメロン・クロウが『オン・ザ・ロード』を監督していたら、と考えてみる。思わず明るい映画になってしまい、原作の愛読者からブーイングを浴びるかもしれない。だが、『ヴァニラ・スカイ』のムードで、この映画『Almost Famous(あの頃ペニーレインと)』のように音楽にバイブされる作品に仕立てることができたなら、なかなか個性的な『オン・ザ・ロード』になりそうだ。
キャメロン・クロウが監督してヒットした2つ、『Almost Famous』と『エリザベスタウン』は、ロード・ムービー好きなら観る価値のある素敵な映画だ。恋愛映画であり、ある種の成長モノでもあるが、とにかくクロウ監督は音楽の使い方が秀逸、というよりもジコチューであり、そこにハマれば彼の映画は絶対好きになれるのだ(筆者はそうです)。もともと10代にして『ローリング・ストーン』誌の音楽記者になったという伝説のキャメロン・クロウが、自らの体験をベースに作り上げた、1970年代への祝祭の映画が、この『Almost Famous』でもある。

『I’m Not There(アイム・ノット・ゼア)』

トリップ感★★★★
ストーリー★★★★★
音楽   ★★★★★
キャスト ★★★★

 もしトッド・ヘインズが『オン・ザ・ロード』を監督したら、という「if」は、キャメロン・クロウ以上にリアルであり、「観てみたい」と思わせる。この『I’m Not There』を観た後なら、特にそう感じるはずだ。
ボブ・ディランが好きな人、ビート作家に興味がある人、旅好きな人、アメリカのルーツ・ミュージックを愛する人なら、この映画はmust see movieだろう。
ケイト・ブランシェット、クリスチャン・ベイル、カール・フランクリン、ヒース・レジャー、ベン・ウィショー、リチャート・ギアという6人の役者たちが、それぞれ「ボブ・ディラン」を演じている。ここで「ボブ・ディラン」という名称は証されない。が、それがディランであることは誰にもわかるのだ。このアイディア、設定、キャスティング、演出に、まずは大きな拍手を贈りたい。この映画は、ある意味で前例のない傑作音楽映画だと思う。
白眉は、ケイト・ブランシェットの「そっくりさ」だろう。彼女の全てにディランが乗り移っている! ディランがブランシェットの着ぐるみをきているみたいだ。
そして、6つのストーリーの中で特に感動的な1話は、カール・フランクリンのエピソードだ。ディランがここでは黒人少年である。そして彼は、ディランであり、同時に、ディランが深く尊敬したウディ・ガスリーでもある。そして同時に、かつての米国に無数に存在していた「ホーボー」の1人でもあるのだ。
これは厳密な意味でのロード・ムービーではないかもしれないが、「路上の旅の魂」が込められた傑作映画だ。


『Night On Earth(ナイト・オン・ザ・プラネット)』

トリップ感★★★★
ストーリー★★★
音楽   ★★★
キャスト ★★★★★

 ジム・ジャームッシュ作品の中で「最も旅感、移動感のある映画」は、ジョニー・デップが主演した『デッドマン』だと思う(筆者は)。初期3部作から『ブロークン・フラワーズ』など最近の作品まで、常にジャームッシュ映画には移動や旅が物語に組み込まれてきた。が、なぜだろう彼の映画は常に「留まっている物語」でもある。登場人物たちはみんな迷っていて戸惑っていて、移動しつつも移動していない、というような。停滞している人々をジャームッシュはこよなく愛し、観察し、やさしく描いているように感じられるのだが、皆さんはどう思いますか?
それでも、『Night On Earth』はユニークなロード・ムービーであり、オムニバス映画として楽しめる作品だ。LA、NY、パリ、ローマ、ヘルシンキという5つの場所を舞台に、タクシー・ドライバーを主人公に、物語は描かれている。地球の上、同じ惑星の上の「どこかの町角」で、同じようにタクシー運転手をしている人々がいて、同時刻に、それぞれの客を乗せるのだ。
1話目、LAが舞台で、ウィノナ・ライダー(ものすごく可愛くてかっこよくてセクシーだ)演じる愛煙家のタクシー運転手のキャブに乗り込むのは、名優ジーナ・ローランズ。向かうのは、ジョン・カサヴェテスと暮らした実際の家だ。このオープニングのエピソードでいっきに「もっていかれる」すばらしい映画だ。
トム・ウエイツの音楽に乗って観る人は、地球の町角を旅していく。個人的に好きなのはロベルト・ベニーニがタクシー運転手のローマのエピソードだが、アキ・カウリスマキ監督のヘルシンキもすばらしい。