天草を旅する。【繭の中の半島】

日本の原風景と南蛮文化の異国情緒がとけあった紺碧の海に囲まれた美しい宝島、
旅のはじまりは宇土半島を通る長い猪道である。
有明海に突き出た屏風岩を叩くような風に、土塊を逃がさぬよう植えられた椿は、
深紅に燃えて揺れていた。
わずかな幅の花壇を抜けて山道を歩く。
はがね色に海はうねり、空には春色をした雲が幾筋にも延びていく。
低空にうすい膜が広がり、もの憂げな山々をすかしている。
地図を開く。
まるでこの半島は、天蓋か、大きな繭。
新井敏記

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