ジャンフランコ・ロージ監督 『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』

ジャンフランコ・ロージ監督 『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』

文・写真/今井栄一
text & photography by Imai Eiichi


©DocLab

全長およそ70km。1日の車の交通量が16万台。大都市ローマを取り巻く大動脈、「環状線GRA」。この環状線のすぐ外側、あるいはすぐ内側、という地域に暮らす人々をとらえたドキュメンタリー映画である。すばらしい映画だ。第70回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した。

環状線の内側の中心部(しかも、その一部分)が、世界中からの観光客が訪れる、いわゆる「ローマ」だ。古代都市国家であり、かつてヨーロッパのすべての道がそこへ集約されていたとされる、大昔の世界の中心地である。
だが、ローマとは実はもっと大きく外へと広がっている都市なのだ。

たとえば、「東京」と言われて多くの人がイメージするのは、渋谷や新宿といった繁華街であり、丸の内や大手町といったビジネス街、官庁街だろう。だが、高尾の山も練馬の畑もまた東京である。ニューヨークはマンハッタンだけではない。コニーアイランドのビーチも、北部ハドソンの広大な自然も、やはりニューヨークなのだ。同じようにローマにも、「見えないローマ」がある。

この映画の監督、ジャンフランコ・ロージは、「イタロ・カルヴィーノの名著『見えない都市』にインスパイアされて、この映画を撮り始めた」と語る。そう、「(ふだんは)見えないローマ、語られないローマ」。それが、大環状線GRAの外側、あるいはその周辺の地域なのだ。ジャンフランコ・ロージ監督は、そんな「見えないローマ」に暮らしている現代の異境のローマ人たち、旅行者である我々は出会うことのないであろう愛すべき住人たちの暮らしぶりをカメラでとらえていった。そう、「ローマ環状線周辺に暮らす=ローマの辺境に暮らす人々」……。
樹の中の「音」を研究し続ける植物学者。ブルジョワを装い偽りの生活を送る没落した元貴族の男。不釣り合いなモダン建築物に暮らし、おしゃべりをしながら毎日を送る老紳士とその娘。事故現場で人命救助を行い、その合間に年老いた母親の面倒を見る救急隊員の男。後継者のいない伝統のウナギ漁を行う漁師。子守歌を口ずさむ両性具有の車上生活者……。

第70回ヴェネツィア国際映画祭で、ベルナルド・ベルトルッチ監督、坂本龍一ら審査員から大絶賛されたこの映画は、ドキュメンタリー映画として初めて金獅子賞を受賞した。

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