ジャンフランコ・ロージ監督 『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』

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——実際に撮るときには、演出的なことは一切しませんか。

GR 何もしない。私は何も彼らに言わない。こうしてくれとか、こう言ってくれとか、そんなことは一切なしだ。私は彼らを撮る、ただそれだけだ。私にはカメラが何を映すのかまったくわからない。彼らがそのときどんな行動を起こすのか、何を語るのか、まったく見当もつかない。だが、その一切の無知こそが、魔法を起こすんだ。こちらが、何が起こるか知らないからこそ、予想もつかないからこそ、フィルムはマジック・モーメント(魔法の瞬間)を切り取り始めるんだ。それこそがドキュメンタリーの本質だと思うね。

——長い時間、カメラを回さず、信頼関係を築くためだけの時間が費やされると先ほど語りました。その時間に、大切な言葉や行動が「撮れていない」ことが、悔やまれませんか。

GR 確かに私は、「数多の瞬間を失っている」。「たくさんの時間を私は映していない」。一方で私は、「数多の瞬間を撮っている」。「たくさんの時間を私は映している」んだよ。

もしかしたら、世の多くのドキュメンタリー・フィルムの作家たちは、「すべてを撮っておきたい」と思うのかもしれないね。でも、そうだとするなら私はその正反対にいるドキュメンタリーの映像作家と言えるだろう。

私はけっして、すべてをくまなく撮ろうとは考えない。すべてを撮ること以前に、真の信頼関係を築き上げることの方が大切だと私は考えるからだ。信頼関係なしに、本質は撮れないんだよ。私は全部を撮りたいのではないし、すべてを見せたいわけではないんだ。

私は彼、彼女の「人生の一瞬」を切り取りたい、「ある時間」を撮りたいんだ。そして、「その瞬間」「ある時間」こそが最も大切だと私は考えているんだよ。なぜなら「その瞬間」「ある時間」が、「人生のすべて」に繋がる真実を見せていると信じているからだ。そのような「人生の真実」を見せるのが、私の仕事であり、映像の記録であり、本物の映画だと私は考えているんだ。

ローマ環状線、めぐりゆく人生たち
監督・撮影・音響/ジャンフランコ・ロージ
原案/ニコロ・パセッティ 編集/ヤーコポ・クアドリ
8月16日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。
配給/シンカ
原題/SACRO GRA