伊藤比呂美×平松洋子『生きる』その3

<お客さんからの質問>「お2人は将来、どんな死に方をしたいですか?」
平松 私はできたら、ころっと死にたい。

伊藤 延々と患いながら、その過程を全部書いて、死にたい。

平松 それ、書けるという前提ならいいけれど(笑)。

伊藤 いや、じゃあ口で、口述でも。毎日夫か編集者に来てもらって、口述筆記してもらって、毎日それをコンピューターに打ち込んでもらって。コンピューターを目の前に持ってきてもらって、入れたらそれを見て、もし目が見えなくなっていたら読んでもらってそれを聞いて、また直して。そうやってできあがって、そしてゲラを見てから死ぬ。
<場内爆笑>
平松 ものすごくポジティブじゃないですか。

伊藤 いや、ポジティブっていうか、よく考えていないというか。

平松 それは、でも、あくまで「生きるんだ」という気持ちでもあるような気がしますよね。いいですよね、だから。「生きる」というところだけに意思が向かっている。

伊藤 たとえば、だんだん足が悪くなったり、動かなくなったりしてきたら、その「足が動かない」のが、快感かどうかを、確かめて死にたいの。

平松 もう、ほとんどそれで「おあとはよろしいようで」状態ですよね(笑)。


伊藤比呂美(いとう ひろみ)
詩人。1978年に第16回現代史手帖賞を受賞してデビュー。99年『ラニーニャ』で野間文芸新人賞、2006年『河原荒草』で第36回高見順賞、07年『とげ抜き新巣鴨地蔵縁起』で第15回荻原朔太郎賞、第18回紫式部文学賞を受賞。『良いおっぱい悪いおっぱい 完全版』『読み解き「般若心経」』など著書多数。最新刊『父の、生きる』。


平松洋子(ひらまつ ようこ)
エッセイスト、フード・ジャーナリスト。2006年『買えない味』で第16回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。12年『野蛮な読書』で第28回講談社エッセイ賞受賞。『サンドウィッチは銀座で』『ステーキを下町で』など著書多数。最新刊『いま教わりたい和食 銀座「馳走 そっ啄」の仕事』。