伊藤比呂美×平松洋子『生きる』

さる5月16日、金曜日の夜。
東京・渋谷のBunkamuraドゥマゴパリにて、伊藤比呂美と平松洋子のトーク・イベントが開催された。「ドゥマゴサロン 第10回文学カフェ『生きる』」である。その様子を3回に渡ってご紹介。

取材・撮影/Coyote編集部

さる5月16日、金曜日の夜。
東京・渋谷のBunkamuraドゥマゴパリにて、伊藤比呂美と平松洋子のトーク・イベントが開催された。「ドゥマゴサロン 第10回文学カフェ『生きる』」である。その様子を3回に渡ってご紹介。

取材・撮影/Coyote編集部

 
平松洋子 伊藤さんはこれまで、女の「苦」について書いたり、語ってきたと思うんです。出産もそうだし、子育て、仕事についても。女が生きていく中で様々な「苦」に遭遇するわけですよね。伊藤さんは、人生相談のようなこともそうだけれど、それについていろいろ考え、書き、答えていらっしゃる。それで私は、「伊藤さんは、生きていく上で必要である『食べ物』について、どんなふうに考えていらっしゃるのかな?」っ思ったとき、「これはきっと、身体から発する言葉があるに違いない」というふうに思って、それでお話がお聞きしたくて。それで先日、お会いしたんですよね。

伊藤比呂美 タマゴの話で盛り上がりましたよね。っていうか私が一方的に話したんですけれど(笑)。平松さんと話しているうちに、どんどん私の「卵話(たまごばな)」——よく言うじゃないですか「恋話(こいばな)」って(笑)——卵話が、どんどん大きくなっていって、「あ、私にとって卵を食べるってこういうことだったんだ!」って気づかされましたよね。卵を食べる、ということが、こんなに深くまできているのか!って。卵を食べることが、土につながり、生きることにつながり、死にもつながるという。

平松 伊藤さんの「卵ライフ」って、どんな感じですか?

伊藤 私、生卵が好きなんです。以前、友人に、「死ぬ間際に何を食べたいか」という質問をされて、私、一生懸命考えて、それで「卵かけご飯」って答えたんです。そこに一緒にいた別の友人(男)は、「俺はカツ丼」って言って。そうしたら質問した友人が「カツ丼食べられるんなら、おまえ、まだ死なないだろ」って言ってみんなで笑ったんですけれど(笑)。ちなみに、私がずっと暮らしてきたアメリカでは、スーパーなどで卵を買うと、パッケージに「生で食べないでください」って書いてあるんですよね。

平松 伊藤さんの「卵かけご飯」の流儀は?

伊藤 卵かけご飯の流儀って、びっくりするくらい人それぞれなんですよね。たとえば、「お椀にご飯を盛って、その上で卵を割る」という人もいるし、あくまで「卵は別のお椀に割って、あらかじめといでからご飯にかける」という人もいて。あと「カラザは取るか」とかもね。で、私の場合は、「カラザは取る」です。平松さんは?

平松 私もカラザは取りたいですね。伊藤さん、カラザは何で取ります?

伊藤 箸ですね。でも、卵によっては(すっと)取れなくて、逃げちゃったりするんですよね。すると、「あ、逃れたわ」みたいに思ったりね(笑)。すっとつかんだときが気持ちがいい。

平松 卵がけご飯を食べる前から、もう嬉しそうですね(微笑)。

伊藤 そうなの! 卵を割った時点でもう盛り上がっているわけ。
<場内爆笑>
伊藤 それでね、アメリカでは「生で食べないように」と書いてあるって先ほど言いましたよね。だから私、洗っていたんです。もちろん殻ごとね。卵を割る前に。
<再び爆笑>
伊藤 もう面倒くさいので、今は洗っていませんけれど。それまでは丁寧に洗ってから割っていました。