コヨーテの音楽 Soundtrack for Coyote 003【Red Curb】

コヨーテの音楽 Soundtrack for Coyote 003【Red Curb】
松浦紀子
003【Red Curb】



その日の午後、私は、その知らせを聞いた。電話のむこうから聞こえてきた言葉に、私はうまく反応できなかった。え? なんで? 嘘でしょ?
私は、しばらく呆然とし、そして泣いた。

彼の音楽を初めて知ったのは、2002年のことだった。紡ぎ出される音の繊細な美しさ。アルバムをさかのぼり、夢中で何度も聴いた。この世にこんな音楽があるんだ、と感動した。
彼の姿を初めて目にしたのは、その年の9月に行われた野外イベントだった。よみうりランドの中にある、気持ちのいい会場。ステージ脇のセットで、私は、彼のライブを観た。背中をまるめ、機材に覆い被さるようにしてプレイする彼は、すっかり汗だくで、涼しげな音色とはちょっとイメージが違った。そして、もっと彼が好きになった。

彼と初めて話をしたのは、それからだいぶ時が過ぎた、2011年の7月だった。
思いがけないタイミングで、私が担当する番組に遊びに来てくれることになったのだ。収録はとにかく楽しくて、彼の面白トークにみんなで大笑いした。収録の合間に、私は、彼の音楽をどれだけ愛しているか直接伝えることができて、それも、とても嬉しかった。
収録後に、みんなでご飯を食べに行き、ビールで乾杯した。
「今日はホントに楽しかったなあ。いつもこうはいかないんだよなあ。」
そう言って、彼は、ひとなつこい笑顔を見せた。
それから2週間ほどたった7月27日。彼は突然、この世からいなくなった。

原神玲という、美しい名前をもつその人が、新しい音を届けてくれることはもうないけれど、でも、私は、彼の生み出した美しい音楽を、これからもずっとずっと愛し続けるのだと思う。

ハラカミさん、そちらはどうですか?
楽しくやっていますか?


旅のサウンドトラック003
amazon 『Red Curb』rei harakami


松浦紀子 Matsuura Kiko
ラジオ番組ディレクター・選曲家。良い音楽と、美味しいお酒と、ひとんちの猫をこよなく愛する日々。世田谷在住、ときどき鎌倉。週末は、J-WAVE「atelier nova」やってます。