コヨーテの音楽 Soundtrack for Coyote 002【cribas】

コヨーテの音楽 Soundtrack for Coyote 002【cribas】
松浦紀子
002【cribas】



久々に、モノ・フォンタナのアルバムを聴く。
たくさんの音が溢れ出す。楽器の音だけじゃない。色々な音が、曲の中に溢れている。音の洪水に翻弄されるとき、そこにはなぜか、静けさがある。

金沢へ旅をした。
大好きな金沢21世紀美術館で展覧会を楽しんだ後、私は、もう一カ所、気になっていた場所に行ってみることにした。
金沢21世紀美術館から歩いて10分ほどのところにある「鈴木大拙館」だ。
鈴木大拙という人物のことは、つい最近知ったばかりだった。金沢生まれの
世界的な仏教哲学者。「鈴木大拙館」は、彼の生涯に学び、その思想に出会う、
そんな場所だという。建築家・谷口吉生さんが建物を手掛けている、ということで、その建築を見るのも楽しみだった。

緑に囲まれた住宅街の中、「鈴木大拙館」は、静かに佇んでいた。
中に入り、美しい庭を眺め、展示空間を見てゆく。20代で渡米した大拙。英語で書かれた味わい深い書が眼をひく。静かに楽しみたい、そんな空間。
しかしその日は、何かのサークルだろうか、年配の方たちのグループが見学に訪れていて、彼らの賑やかなおしゃべりが館内に響き渡っていた。私は、賑やかなそのグループからなるべく離れて、館内を進んだ。
展示空間を抜け、外の回廊に出ると、目の前に直線で切り取られた水の空間が広がる。「水鏡の庭」。まっすぐに伸びた塀。直線で空間が切り取られている。そして、水鏡の庭に突き出すように、その部屋はあった。
箱のような、シンプルな部屋。思索するための部屋。
あいかわらずおしゃべりに夢中なグループが、ようやく腰をあげるまで、かれこれ20分ほど待っただろうか。ついに誰もいなくなった「思索空間」に、私は足を踏み入れた。

正方形の畳敷きの椅子が、綺麗な四角を描くように並べられている。
天井の高い部屋の三方には、障子の引き戸。
引き戸を開け放つと、見える景色は、まるで額縁の中の絵のようだった。
時々、池の中で何かが跳ねる音がする。カラスの鳴き声がする。
緑を揺らす風の音がする。年配の女性たちの笑い声が遠くで響く。
様々な音がくっきりと聴こえ、そして同時に、静寂があった。

モノ・フォンタナの音楽を聴いていたら、あの日金沢の、鈴木大拙館の「思索空間」で体感した、不思議に静かなあの時間を思い出した。


旅のサウンドトラック002
amazon 『cribas』Mono Fontana


松浦紀子 Matsuura Kiko
ラジオ番組ディレクター・選曲家。良い音楽と、美味しいお酒と、ひとんちの猫をこよなく愛する日々。世田谷在住、ときどき鎌倉。週末は、J-WAVE「atelier nova」やってます。