国境を越えるオタクたち

アメリカのオタクは
日本に比べて恋に積極的?

都甲
 それで、今日のタイトルは「オタクのための恋愛入門」ですが……。
ディアス
 (綿矢さんに向かって)準備はばっちりかな?
綿矢
 オタクの恋愛ということで、オスカー・ワオを読んで感じたのは……。
ディアス
 違う、違う。僕への質問ではなく、あなたのストーリーのなかの恋愛について聞きたいなあ。(笑)
綿矢
 私? 日本でオタクというのは、アニメやサブカルチャーなど何かに詳しい人であると同時に、コミュニケーションが苦手というイメージも含まれますよね。日本は家にいると、あまりにも魅力的な二次元のアニメーションキャラクターなどが豊富で、部屋から出られないワールドになっている。だから、恋愛から遠ざかってしまうのではないかと思います。それに比べて、オスカー・ワオはユーモアに富んだ話をするし、友達の話もできるから驚いたんです。海外のオタクは積極的なのでしょうか。オスカー・ワオは女の子を好きになって、アタックもする。言ってしまえば当たり前ですが、いくら好きなことがあっても、日本のオタクにとってはまず家の外に出ることが最初のステップです。
ディアス
 (アニメなど)二次元の世界と恋愛の関係は面白いですね。アメリカの従来の男らしさって、漫画に出てくるイメージの女性を愛して追いかけることなんです。僕の小説の中に出てくる二人の男性のうち一人はエネルギッシュで男っぽくて、もう一人はオタク。でも実は、二人ともリアルな恋愛をする時に捨てなくてはいけなかったのが二次元の女性のイメージだった。女性は生身の人間であるということを理解して、実際の女性を愛することは男性にとって結構大変なことだったりする。
都甲
 なるほど、社会的につくられた女性のイメージが二次元にあるということでしょうか。綿矢さんは『ひらいて』など失恋の話が多いですが、うまくいく恋愛の話を書くことは?
綿矢
 書きたいですけど、どちらかというと、恋愛がうまくいかなくなった後の敗北感のすがすがしさ、晴れ晴れとした寂しさを描くことにカタルシスがあります。今までは小説を書く時に一つの恋愛を扱ってきましたが、これからはいくつかの種類の恋愛があると、人生はいろんなかたちがあるということを表していけると思うので、挑戦していきたいですね。