世界が共有するもの
池澤夏樹

ギリシャ、沖縄、フランスへと移り住み、
世界各地の文学イベントに参加した経験を持つ作家、
池澤夏樹。
作家や翻訳家が国を超えて語り合う
日本初の国際文芸フェスに寄せたメッセージ。
photograph by Tada

ぜこういう文芸フェスティバルを開くことになったのか。考えてみると、理由は第二次大戦が終わってから、あるいは二十一世紀になってから、世界中の人々が共有するものが以前よりずっと増えたことにあると思います。かつては本を書いて出すなどできなかった旧植民地が文芸の力をつけて、作品を発表するようになりました。人の行き来が増え、たくさんの人が国から国へ、時には自由に、時には仕方なく移動するようにもなった。観光から移民、難民までさまざまな理由で人は動きます。それは世界中が共有する一つの価値、問題につながった。だからたくさんの文学者がお互いに交流し、言葉を交わし、衝突し、そこからまた何かが生まれる。日本では国際的な文芸フェスティバルは初めてですが、ヨーロッパやアメリカ、その他の国ではこうした催しは以前からずいぶん開かれています。僕はフランスに何年か住んでいましたが、年に何回もフェスティバルやブックフェアから招待が来て、そこで喋ったりサイン会をしたり、読者と顔を会わせ、作家たちと親しくなった。日本でもそうしたフェスティバルをできるようになったことを大変うれしく思います。