KINFOLKを訪ねて ポートランドへ。

text by Akune Sawako / photographs by Parker Fitzgerald

ポートランドを初めて訪ねたのは半年ほど前のことだ。この町のそこかしこにある本屋を巡った。新刊と古書を一緒に扱う、巨大な倉庫より巨大な〈Powell’s〉に大いに興奮したのは言うまでもないこと。秘密めいた屋根裏部屋に戦前からの雑誌がずらりと並ぶ古きよき(ほこりっぽい!)古本屋、ZINEばかりを扱う書店、サイコに特化した書店……とユニークな個人書店ぞろいで、かつ出会う誰もが、気に入りの書店があるという。時間をかけて本を選び、すぐ近くに必ずある(書店内にある店も多い)カフェでそれを読みふけることが当然のように生活に組み込まれているようで、ゆったりとしていて無理のないそのライフスタイルを目の当たりにして、“うらやましい……”を連発する旅だった。そしてもうひとつ。「KINFOLK」をつくり出すのはこういう町か、と妙に納得がいったのもまた事実である。
縁あってこの旅で出会い、今や大の仲良しになったパーカー・フィッツジェラルドの写真を知ったのが、雑誌「KINFOLK」だった。この雑誌のフォトグラファーの一人としてしばしばクレジットされていたのだ。日本の書店の海外雑誌のコーナーで目にするようになって間もないその雑誌は、いつもものすごく目立っていた。
周りに並ぶ雑誌の、つるっとしたコート紙の表紙の上では、こってりとしたメイクといかにも高価そうなファッションできめたセレブリティが完璧に微笑み、余白では特集の内容を凝縮した言葉が踊る。ところが「KINFOLK」ときたらまるで逆なんである。ツヤを抑えた表紙には、浅めのトーンの、もの言いたげな写真が一枚。余白には控えめなロゴがぽんと置かれる。それだけ。それがかえって目を引いて手にとる──さらにページをめくっても、期待は裏切られることはない。
雑誌「KINFOLK」の創刊は二〇一一年。サブタイトルに“A Guide for Small Gatherings”とある通り、家族や恋人、気心の知れた友人たちとの満ち足りた時間の過ごし方の提案をメインテーマに掲げるライフスタイルマガジンだ。”kinsfolk”とも綴られるタイトルの意味は、家族や一族、血縁などを示す古めかしい英語。季節ごとのイベントやローカルなビジネス、カルチャーやスポットといったトピックを、ま正面からというよりは、美しい写真やエッセイなどで叙情的に綴っていく。
オンラインマガジンとしてスタートした後、季刊の雑誌となり、今では全米はもとより、ヨーロッパ各国、アジアと全世界で読まれるようになったこの雑誌の創刊編集長を務めるのが、ネイサン・ウィリアムズだ。ひとことで彼を表現するならどういう人物? と先ほどのパーカーに尋ねた時の答えはなかなか雄弁だった──「アメリカ人と言えば騒々しくてモノを知らないと思ってる人は、ネイサンに会うといい。彼はいわゆる“ヤンキー”の真逆だ」
目にかかる長めの髪、驚くほどに静かな物腰のネイサンと彼の美しい妻、ケイティ。雑誌の原点は二人の普段の暮らしにあったとネイサンは振り返る。