KINFOLKを訪ねて ポートランドへ。

「学生の頃、僕らの小さなアパートにはほとんどひと晩おきに友達が来ていたんだ。晩ごはんを食べたり、ただ集まったり、特別に何かを用意するわけではなくて、ごくカジュアルなもの。そうするうちに、そういうライフスタイルのインスピレーションになるものがない、という話になって、じゃあ自分たちで作ってみようと思い立ったんだよ」
DIY精神あふれるポートランドは、ZINEづくりをサポートするNPOがあったり、図書館にまでZINEコーナーがあるほどで、ZINEカルチャーのメッカのひとつでもある。“じゃあ自分でやってみるか”はとても自然な成り行きだったのだろう。ビジネスになるなど思いもしなければ、出版の経験があった者もほとんどおらず、号を重ねながらノウハウを学んでいる最中だとネイサンは言う。毎号の最後に書かれるこんな文章にも、「KINFOLK」の方向性は明らかだ。

「KINFOLK」は、“小さな集まり”に興味をもつ、クリエイティビティある人々の集まりです。友人達と囲むテーブル──結婚式や毎年の恒例行事だけではない──には、絆を強め、活き活きとさせてくれる何かがある、と感じます。自分たちの愛する楽しみをごく自然にやっていく術を示すものとして、「KINFOLK」を始めることにしました。
特集、写真、美学……。「KINFOLK」を構成する全ての要素が、“楽しみ”のあるべき姿を物語っています。普通で、シンプルで、計画されていないこと。アート、デザインへの感謝と、家族や友人たちへの愛情の出会いが、「KINFOLK」を形作っています。

たとえば最新号の七号の巻頭は、農地を捉えた航空写真によるフォトエッセイ。畑の畝や、農耕機が大地につけた痕跡は、改めて見るとこんなに美しいものかと驚かされる。そうかと思えば、究極のコーヒーを追求するメルボルンの達人の記事があったり、アイスクリームにまつわるフォトストーリーが綴られたり……。表紙のイメージにもなった“FLORAL SCOOP”と題した記事は、アイスクリームコーンに花を挿したり、はたまた花をアイスクリームに見立てたりするスタイリングページで、斬新ではあるが、ちょっと真似してみたくもなるインスピレーションに満ちたものだ。
「ページを作っていく時にかなり気をつけるのは、読者が読み終えた時に何かアイデアを得られること」とネイサン。
「学べる部分、レシピ、ちょっとしたテクニック……。役立つ何かがあるようにしています。優美で抽象的なページでありつつ、実用的でもある。そのバランスをいかに保っていくかが、いつも課題になりますね」
まさにそのバランスが絶妙だからこそ、「KINFOLK」はあっという間に絶大な支持を得たのだろう。バランスを保つコツのひとつは、写真とレイアウトデザインだとネイサンは話す。デジタル全盛のこの時代にあって、多くの写真はフィルムで撮られたものだ。
「好きな写真とそうでないものの線引きはかなり明確だし、毎号が始まる時に、どういった色合いを求めるかというカラーパレットをフォトグラファーとエディターで共有する。だから写真のセレクトもかなり意図的なんだ──あまり“ビジー”じゃない写真、背景のノイズや動きが少ない写真。だから結果的にはとても率直でシンメトリカルな写真を選ぶことになる」
セレクトした写真は「目に優しいよう」余白を多くとってレイアウトするのも「KINFOLK」の特徴だ──多くは一ページか見開き大。小さくなってもせいぜいが四分の一ページ程度の大きさだ。見開きに二十点、三十点の切り抜き写真が詰め込まれることも珍しくない“実用的な”ライフスタイル誌やファッション誌と比べるとその違いは明らかだろう。情報量が多いのは後者だとしても、そこから読者が受け取る量では、「KINFOLK」が圧倒的に勝るのである。