Photographer’s Appetite/写真家たちのおかえりごはん

その4<コーヒー>
文と写真 野口里佳

 ある年のクリスマス、ウガンダにあるジンジャという町にいた。ジンジャにはナイル川の源流といわれる場所があり、そこが唯一の観光名所となっている。それ以外は何があるという訳でもないこの町が私は好きで、訪れるのは3度目だった。とくにすることも無いので、ぶらぶらと散歩をする。歩き疲れると自転車タクシーに乗ったりする。タクシーといってもただの自転車の2人乗りだ。
夕方になると大きな音で音楽が聞こえ始めた。町のホールでクリスマスパーティが開かれるらしく、あちらこちらに手書きのポスターが貼ってある。雪など降らないこの町のクリスマスツリーにも、雪に見立てた綿がこんもりと積んであった。そして音楽は真夜中まで続いた。
翌朝、早起きをして宿の近くにある湖のほとりに行くと、いつもは静かなその場所にたくさん人がいる。対岸にある自分の家に帰るために、船を待っているらしい。アフリカでは、どうやったらこんな色が着こなせるのか、と驚くほど派手な布がたくさん売っているけれど、水辺に集まったピンクや水色のドレスを着た人たちは朝日の中でとても綺麗で、私はみんなが船で帰ってしまうまで、その光景をうっとりと眺めていた。
旅からベルリンの家にもどると、まずはコーヒーを飲む。自分で入れたコーヒーを飲むと、帰って来たんだなあと思う。そしてゆっくり、旅で見た美しい光景を思い出す。