星野道夫の暮らし

この土地に暮らそうと思い始めてから、まわりの風景が少し変わってきたように感じる。春に南から飛んでくる渡り鳥にも、足もとの花やまわりの木々に対しても、やはり同じような思いをもつ。それを簡単に言えば、何か、とても近いのだ。それはまた、生命あるものだけでなく、この土地の山や川、吹く風さえも自分と親しいつながりを持ち始めている。初めてアラスカにやってきた頃、あれほど高くそびえて見えたマッキンレー山も、今は何か穏やかだ。
(『イニュニック』 星野道夫)

発売中『Coyote』第53号より