EDITOR INTERVIEW with
Deborah Treisman『The New Yorker』

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名ホストぶりが際立つ
フィクション・ポッドキャスト

「ニューヨーカー」の百万部を超える発行部数のうち、九割以上が定期購読者のもとへ届くことも、デボラたちエディターにとっては強味だ。「こういう時代にあってマーケティングに左右されずに編集方針を貫けるのはありがたいこと」と話すが、時代の変化と全く無関係にいられるわけではない。
「ウェブやアプリ用のコンテンツにポッドキャスト……。編集の仕事は日に日に立体的なものになっています。それに比例して仕事量も多くなるけれど、作家や作品、そして読者に新しい角度から触れられるという意味では、深いやり甲斐を感じてもいます」
実際、毎月更新される「ニューヨーカー」のィクション・ポッドキャストはかなりの聞き応え。デボラがホストとなって毎回作家を一人招き、過去の「ニューヨーカー」のフィクション・アーカイブの中から一作を選んで朗読してもらい、その作品やゲスト作家自身の創作について語り合うという構成で、二十〜二十五万ダウンロードを記録するという。
「読者に触れる機会は実はあまり多くないので、ダウンロードの数ではっきりとした手応えを感じられるのは新鮮。私自身、過去のアーカイブから知らなかった傑作に出会うという読者としての喜びも、実はあります(笑)」
聴取者にとってはしかし、長くアメリカ文学を支えてきた「ニューヨーカー」のフィクション・エディターであるデボラの素顔に触れる機会でもある。彼女の文学作品への深い愛情と敬意は、このポッドキャストでの名ホストぶりにも明らかだ──「ニューヨーカー」のないアメリカ文学など、やはりありえない。そんな思いを、人々は抱くことだろう。
もしも彼女自身が、このフィクション・ポッドキャストにゲストとして呼ばれたら、どの作品を選ぶのだろうか? そう尋ねると、デボラの端正な顔が、くしゃりと破顔した。
「どの作家のどの作品もって言わなきゃいけない立場なのに! 心に留っている作品を挙げていくなら、ョージ・ソーンダースの『Home』、ャーマン・アレクシーの『What You Pawn I Will Redeem』、レア・キーガンの『foster』、リス・エイドリアンの『A Tiny Feast』、それから村上春樹の短篇どれでも……。ああ、やっぱりキリがないわね(笑)」
深い造詣と誠意とをもって、彼女と「ニューヨーカー」は、アメリカ現代文学の扉を守り続ける。