North Shore Stories 片岡義男【ノースショア・ストーリーズ】

海を見ている男たち

 カラカウア・アヴェニューの海側のベンチにひとりですわって、その年配の日系の男性は、ワイキキの海を見ていた。おなじベンチにすわろうとして歩み寄り、立ちどまった僕に、
「もう何年も、こうしてこの海を見てるよ」
と、日系二世の英語で、彼は僕に話しかけてきた。
「バーブド・ワイアー(鉄条網)をシート状に作って、それを筒状にぐるぐると巻いてトンネルのようにしたものが、この海岸の端から端まで、うねうねと横たわってたのさ。人は誰もいなくてね。海と砂浜とバーブド・ワイアーのトンネルだけさ。陸軍に入隊するときに、ちらっと見たんだよ。この砂浜に上陸して来る敵兵を、ほんのいっときにせよ阻止するのが、そのバーブド・ワイアーのトンネルの役目だったのさ。僕が十九歳のときに見た、それまでの人生でもっとも馬鹿げた光景だね。戦場から帰ったら、さすがにもうなかったね。あれほどに馬鹿げた光景は、あれ以来、一度も見てないよ。だからね、ここへ来るたびにこうしてここにすわって、砂浜や海を見ながら、あの馬鹿馬鹿しさを思い出しているんだ」

『Coyote』No.52「ノースショアに暮らす」より