ノースショアに住む
自然観察者たち その3
Kohl Christensen
コール・クリステンセン
【ノースの痩せた赤土を耕して】

「コーヒーとか飲むかい?」
喜んでいただくことにした。本当に気のいい若者なんだろうな、と僕は独りごちた。
「コーヒー農園はやらないのかい?」僕が訊ねると彼は「コーヒーは難しい。何よりも人手がいる。今やっても労働力の確保に追われると思うよ」そう言うと彼は笑った。
「この土地は君の両親から譲りうけたのかな?」
広大な土地をどのように手に入れたのか、単純な興味を口に出した。
「以前は全てドールという会社が所有していた土地だった。パイナップルで有名なあのドール。昔はこの辺一帯はさとうきび畑で、そこここにさとうきびを搾る工場の煙突が見えた。そこを開発してパイナップル畑を作ったはいいものの、いつしか安い労働力を求めてドールは畑をどんどんアジアに移行していった。でもそのタイミングが僕にはちょうどラッキーだったというわけ。7年前にこの土地が売りに出された時、その情報はまだ未公開で僕を含めてたった4人しか知らなかった。僕は金を借りてすぐに購入の手を上げた。僕と弟と一緒に買った。でも僕たちは軍資金なんて持ち合わせていない。どうしたのか……、君には信じられないと思うよ。本当に面白い話さ。金がなかったから、僕と弟は、1人2万ドルの医療援助金をもらうのに喘息を患っていることにして、1カ月間看護施設に行ったんだ」
いやはや、大胆なアイデアというか……。僕は他の言葉が出なかった。
「ちょっとクレイジーな話。でもすごく運もよかった」コールはそう言うと笑みを浮かべた。「もっとすごいのが、僕たちは1カ月施設に入っている間にペニー・ストックという株取引を始めた」
ぺニー・ストックとは、1株当たり1ドル未満で取引される株式のことをいう。日本でいう相場のようなもの。ペニー・ストックは店頭で売買されるが、値動きが激しく、株価が急騰したと思うと翌日には大幅に下落することもある。こうした株価の変動は、長期的には大きな収益を生む可能性があるが、もちろんリスクも大きい。
「その株取引に1万ドル掛けたんだ、そしたらその株が4セントから30セントまで、実に7倍以上値が上がったんだ。援助金でギャンブルして勝つ」
「凄いじゃないか、コール、君はラッキーボーイなんだ」僕は少しあきれ気味に声を上げた。
「そう、本当にラッキーだった。そのお金でこの土地を買って、そこから僕たちは一生懸命働いた。この土地は痩せていて雑草だけだったから、今ある木は全部植えたんだよ。ゼロから始まった。自分たちで家も作った。それだけでは食えないから、建設の仕事を他から請け合っていった。集中して働いて、世界中をサーフトリップする。今はまっているのはインドネシアだ。金がなくなったらまた仕事する」
「日本ではそういうのを自転車操業というんだ」
「そうか、でも最近はソーラー事業が軌道に乗りつつあるし、パタゴニアの援助もある。彼らとは楽しみながら仕事しているよ」