再訪 野坂昭如 第2回「ある晴れた日、野坂昭如に会いに行く」

Essay vol.06

再訪 野坂昭如 第2回「ある晴れた日、野坂昭如に会いに行く」


「行きましょう」
 ふと黒田征太郎が呟いた。2011年5月、門司港のマンションのベランダから遠く関門海峡に行き交う船を眺めながら、野坂昭如に対する想いを彼は語っていった。
「今、会いに行きたくてしょうがない」彼は繰り返した。「野坂さんはやっぱり素晴らしい方です。素敵な人をみんな野坂さんから僕は紹介された」

 彼は指折り数えるように次々に名前を挙げていった。気づくと皆故人だった。「野坂さんに犬みたいにくっついて行った」と彼は苦笑いを浮かべる。
「擦り込まれているんですね。坂がつく名は僕にはみんな野坂になる。会いたいです」
 黒田征太郎はまた言った。

『ノアーレ 野荒れ』は2007年、今を伝えるために黒田征太郎が企画して写真家の荒木経惟を誘い、脳梗塞に倒れた後の野坂昭如の肖像を追ったものだ。荒木の渾身の写真に黒田の自由な絵が踊る。二人の野坂の復帰を願う想いから5年、まだ野坂昭如はリハビリの渦中にある。
 日本を旅し、『忘れてはイケナイ物語り』や『戦争童話集』を形にしてきた黒田にとっては、野坂昭如という存在は東日本大震災後、原発事故を含めて何よりも声を聞きたい賢者なのだ。『ノアーレ 野荒れ』のその後を企画して野坂昭如復活を願う。黒田の先へと向かう想いがこの特集を具体化した。

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